免許返納〜その5〜免許紛失

義父に運転を諦めさせられないまま日々が過ぎていきましたが、ある日の早朝、義父が騒いでいます。

 

偶然か、神様に願いが通じたのか

老人会のバス旅行に出かけるという日でした。
一泊旅行の予定で持ち物をカバンに詰めていた義父が騒いでいます。

免許証がない!というのです。

 

免許証がない!

義父は部屋中をひっくり返しながら探しています。
刻々とせまる出発時間。
義父の目つきはすっかりおかしくなっています。

義母と私で、
バス旅行だから免許はいらないから。
探しておくから旅行に行ったら?
と無理やり集合場所まで送り届けました。

義父が去った後の部屋は、まるで泥棒が入ったあとのよう。
引き出しという引き出しがすべて開けられ、戸棚のものは床に散乱しています。


義母が片付けながら探していましたが、見つからなけりゃいいなーと思う私。

旅行からは翌日の夜に帰ってくる予定でしたが、昼前に帰宅。
なんと朝起きてすぐ、義父ひとりだけ先に帰ってきたようです。
バス旅行に行ったのに、宿からひとり電車に乗って帰ってきました。

 

警察署

旅行から帰って来てからはずっと免許証を探しています。
夜中も起きて探しています。
食事もしません。
だんだん義母もイライラしてきました。

どこか外で落としたのかもしれないと探しに出ようとするので、これは新たな突破口にいいチャンスかも!と

「警察署に紛失届け」を出さないといけないよ?

と誘ってみました。
まずは義父を警察署に連れて行ってみようと思ったのです。

はじめは渋りましたが、
ちゃんと届け出ないと再発行はできないよ、とか
悪い人に拾われて借金されるかも、とか、
義父の気持ちをくすぐりそうなことを適当に並べ立てると、行く気になってきました。

いちばん効き目があったのは、勝手に借金されるってことでした。
まだまだお金への執着は消えません。

義母もイライラしていて義父から離れたがっていたので、

それがいい!行ってくれば?

と私に協力的。

車で送っていくね、のひとことで、私が一緒に行くのもすんなり受け入れました。

 

肩書きプラス権威、更に制服に頼る。が、再び失敗

地域の警察署の遺失物係に(ホントはしなくてもいいんだけど)届け出をさせると、義父がなにやらアチコチ警察署の人に話しかけています。

チャンスです!

ちょうど、総合相談窓口に年配のおまわりさんと若いおまわりさんが制服で座っています。
チャンスです!制服です!

片目で義父を見張りながら、手短に現状を説明して免許返納の説得を頼みます。

ところが!!!

「そういうことは家族の問題だからねー。警察はね、そういうことに口出ししないの。」


もう…
本当にガッカリです。

『県高齢者運転免許自主返納サポート』なんて嘘っぱちです。

『運転免許の自主返納のサポートを始めました』なんて言葉を信じたらダメです。

この言葉を私たちは、自主返納するときに助けてくれるものだと思っていました。

ところが警察署のおまわりさんは、自主返納の手続きが終わった人にちょっとだけ特典があるよっていうんです。
これから自主返納したい人や、返納させたい家族への助言や相談をしてくれるんじゃないんです。

事が起きなければ警察は動かない、ということでした。

 

義父、納得せず運転免許試験場へ

内心プンプンしながら義父を連れて帰ろうと車に乗せると、試験場に連れていけ!といいます。

警察署から運転免許試験場までは車で1時間半はかかります。
仕事に戻らなければならないからと、一緒に家に帰ろうと説得します。

免許がないと仕事にならないんだよっ!
   (いや、もう車が必要な仕事はなにもしていないんだけど)
試験場で再発行すれば運転できるんだから。
試験場まで行ってくれ。

あーもう!
あっちもこっちもわからんちんだらけです。

さすがにこの時はプチッと切れまして、私は仕事に行かなきゃならないから行けません、とはっきり断りました。
すると義父は、
あーそっか…仕事かー…じゃあ仕方ないなー…駅まででいいよ…

やっぱり帰らないんだ…
まあ、家に連れて行ってもすぐ出かけちゃうだろうし、必要な書類は持ってないだろうし、と判断して、最寄り駅まで送っていくことにしました。

 

認知症症状全開


この頃の義父はひとりで電車に乗って目的地まで行くことができていました。

無事(かどうかはわかりませんが)昼過ぎに運転免許試験場に着いた義父は、免許証の再交付手続きをしようとしたようです。

ですが、なにしろ自分の身元を証明するものを何も持っていないのですから、手続きなんてできないはず。

きっと窓口で必要書類がなければ受け付けられないと断られて、夕方には帰ってくるかなーと、軽く考えていました。


夕食のしたくをしていると、電話がかかってきました。義父からです。

義母と話していますが、義母の声がだんだん大きくなりイライラし始めました。

何事かと思ってそばにいって耳を寄せると、義父の声も少し聞こえます。


「免許証がもらえない」とか
「保険証がない」とか
「試験しないといけない」とか
「何番の窓口でなんとかっていわれて」とか
いろんなことを途切れなくしゃべっています。

義母が「試験受けるのじゃなくて再発行するんじゃないの?そこ行ってみろ」というと、

「行ったよ!アイツらダメだってやらねえんだ!」と怒る義父。

もう試験場も閉まる時刻です。
義母が面倒くさくなって一言。

「もう帰って来い!!」ガチャン。

どこをどう通ってきたのか、夜遅くになって帰ってきた義父は、いかに運転免許試験場の係官が役に立たないかとまくしたてます。

保険証を出せ、だの
番号のボタン押せ、だの
どこそこの窓口に行け、だの
ここじゃなくて隣に行け、だの
うるさいことばっかり言って免許証渡さないんだっ

オレの免許証渡せばいいものをあいつらはっ

もうめちゃくちゃです。


でも、断片的な義父の言葉からなんとなく光景がみえてきます。

適当に窓口に並んでみたものの、そこは再交付の窓口じゃなくて、〇番の窓口に行ってくださいね、と言われた。
そこに行ったら本人証明になるものを出して、と。
免許証ないんだから保険証とか持ってますか、みたいになって、ないと手続きできませんよ、ってなったんじゃないかな。

うん。至極まっとうな対応だと思います。